日本人の8割がかかっている歯周病
生活習慣病の一つである歯周病は、主に歯垢の磨き残しを原因として、歯肉やその周囲の組織に炎症が生じてしまう病気です。現代人が歯を失う最大の原因と言われており、厚生労働省の調査によると35歳以上の日本人では実に8割以上が歯周病に罹患しているという結果が出ています。また、20代でも約7割は罹患しています。
出典元:e-ヘルスネット
歯周病に罹患すると、歯茎が炎症を起こして赤く腫れ、痛みや出血を伴うようになります
この時点で適切な治療を受けずに放置しておくと、さらに症状が進行し、歯の土台となるアゴの骨が溶けていってしまうのです。骨が溶けて支えが弱くなることにより、歯がぐらついたり、膿が出るなどの症状が現れ、最終的には歯を失ってしまうことに繋がります。
また、歯周病菌が血液や唾液を通じて体内に回ると、心臓病などの重大な内臓疾患を引き起こして、最悪の場合は死に至ることさえあるのです。
これほどまでに恐ろしい病である歯周病ですが、その原因と対策はシンプルです。
そもそも、歯周病の最大の原因は不十分なデンタルケアです。残念ながら、われわれ日本人のデンタルケアへの意識は、諸先進国と比べても遅れていると言わざるを得ません。日本人が「普通の歯磨き」と思って実践している歯磨き習慣は、実はデンタルケアとしては全く不十分なのです。
口腔内を健康に保つためには、正しい方法による丁寧な歯磨きに加え、歯間ブラシやデンタルフロスなどのケア用品も活用してこまめに歯垢の除去を行う必要があります。
また、自宅でのケアを怠らないことはもちろんですが、それに加えて定期的に歯科医院での検診とクリーニングを受けることも重要です。こうしたデンタルケアの徹底が、歯周病を防ぐ最大の対策になるのです。
歯周病患者に対するインプラント治療
歯周病が進行して歯を失ってしまった場合、インプラントで歯を補うことは有効な選択肢の一つになります。しかし、歯周病の患者さんにインプラント治療を行う場合、手術に先駆けてまずは歯周病の治療をしっかり行うことが必要です。
歯周病に罹患した口腔内は、多くの歯周病菌に侵されています。この状態のままインプラント手術を行うと、感染リスクの高さに加え、人工歯根と骨の結合がうまく行われず、普通以上に時間がかかってしまったり、人工歯根の結合に失敗する場合もあります。
仮に人工歯根の結合が成功したとしても、口腔内が歯周病菌に侵されたままの状態では、「インプラント周囲炎」に罹患するリスクも非常に高くなります。そのため、歯周病の治療が完了するまではインプラント手術はご法度なのです。
また、歯周病が進行してアゴの骨が欠損してしまっている場合、そのままではインプラントを埋め込むことができませんので、先に骨の自己移植や再生治療を行ってアゴの骨を再生しなければなりません。これにも長い時間がかかりますので、結果として歯周病の進行した方がインプラントを使えるようになるまでには一年以上の期間がかかることが一般的なのです。
歯周病以外の原因でインプラントを受けようとする方も、まずは歯科医院で歯周病の検査を入念にしてもらうことをお勧めします。
インプラント周囲炎の脅威
インプラント治療の終了後は、それまでにもまして丁寧なホームケアが必須になります。というのも、インプラントを埋め込んだからといって決して歯周病のリスクと無縁になるわけではなく、それどころか、天然の歯よりも歯周病菌に侵されるリスクは上がっているからです。天然の歯であれば、骨との間の歯根膜という組織から血液の供給がなされ、血液の栄養で抵抗力が上がっているのですが、インプラントの場合は骨との間にこの歯根膜が存在しません。そのため、血液由来の抵抗力を得ることができず、天然の歯よりも最近に侵されやすくなってしまっているのです。
インプラントの周囲の歯茎が歯周病菌に侵されると、「インプラント周囲炎」という歯周病と同様の病気に罹患してしまいます。通常の歯周病と同じく、インプラント周囲炎も症状の進行に伴って骨が溶け、せっかく埋め込んだ人工歯根も最終的には脱落してしまいます。また、周囲の歯や歯茎にも影響が及んだり、最悪の場合は血液や唾液を通じて体内にも菌が回ってしまうという点も通常の歯周病と同じです。
せっかく高額な費用と長い時間をかけてインプラント治療を受けたのに、日頃のケアを怠ったばかりに更に重い病気にかかってしまっては意味がありませんよね。こうした事態を未然に防ぐためにも、歯科医師の指導のもと、必ずこまめなホームケアを徹底するようにしましょう。
また、どんなに丁寧に歯磨きをしているつもりでも、自分自身では磨き切れない範囲が誰にでもあります。3ヶ月に1回は歯科医院に通い、専門家の技術と専用の機器を用いたデンタルクリーニング(PTMC)を受けることをお勧めします。
デンタルケアというものは、自前だけで行うのでもなく、歯科医院だけに任せるのでもなく、ホームケアと専門ケアの両方を欠かさず行うことが大事なのです。