歯周病とはなにか
歯周病とは
歯周病とは、専門的な定義で言いますと「細菌感染によって引き起こされる炎症性疾患」と表現されます。
わかりやすく噛み砕いて表現すると「歯周病菌という細菌によって腫れや痛みが生じ、その反応が継続していくことによって歯茎や骨が溶けてしまう」病気を言います。
「昔は歯並びも綺麗で問題なかったのに最近になって歯が抜けてから全体的に歯並びが悪くなった」、「最近歯が下がってきて歯茎が痩せてきて口元が一気に老け込んでしまった」等のお悩みをお伺いすることが多々有ります。
歯周病の症状とは
・歯茎が腫れる
・口臭がする
・口の中がネバネバする
・歯茎から出血する
・歯茎から膿が出る
・歯がグラグラする
・食事をしている最中痛い
・歯茎がむずがゆい
・歯が長く見える
などど言った
ご自身の「生活環境」に大きな影響を及ぼす歯科疾患です。
お口=「口腔」は食べ物が初めて入る「消化器官」です。
お口の中でしっかりと咀嚼することは、消化を助け、胃や腸などの内臓器官への負担も大きく軽減し、健康寿命を長くさせていく秘訣だと言えます。
またお口は、人との対面上とても目に入る場所であり、相手に与える影響が大きい部位でもあります。「人は第一印象が重要」という言葉がありますが、「歯並び」や「口臭」といったものは歯周病と密接に関係があります。
では具体的に歯周病を治すためにはどのような治療が必要になってくるのでしょうか?
歯周病が悪化するとどうなる?
歯周病が悪化すると以下のような症状が出て来ます。
出典:e-ヘルスネット
歯周病にかかっている人の割合(=歯周病罹患率)
この統計からもわかりますように20代の若い人たちでもすでに歯周病にかかっています。
・歯茎が腫れる、口臭がする、口の中がネバネバする、歯茎から出血する、歯茎から膿が出るといった歯周病の軽度な症状は実は若い方にも多く見受けられます。
気になる場合は早期に定期健診等を受けていただいた方が良いと思われます。
歯を失う原因となる歯周病
私たちも診療をしていて痛感するのは歯周病による抜歯の適応症が非常に多いこと、そしてその大半が自覚症状を感じないまま突然痛み出し、処置をする際にはすでに治療の機を逃していることが多いということです。
歯周病は罹患していてもわかりにくい性質があります。それはご自身のケアが行き届いている場合や自分自身の免疫力が高い場合細菌の力を抑え込むことができるためです。
ただし、歯周病の治療を受けていない場合はケアをしても根本的に治っていないことがあるため、疲れていたり、自身にストレスがかかってしまうと歯周病は急激に悪化し、重篤な症状を引き起こすことがあります。
出典:e-ヘルスネット
歯周病の症状
歯周病はみなさんもご存知の通り歯を支えている歯茎や骨の病気です。
繰り返しになりますが日常のケアや噛み合わせ、生活習慣、全身疾患といった要因で自身の気づかないまま進行してしまう病気です。
特に臨床的には、歯茎からの出血が多くなってきたときは黄色信号のサインだと認識しておくとよいかもしれません。歯石や歯垢が溜まり、歯周病予備軍になっている可能性が高いためです。
また、歯肉が下がっている、あるいはものを噛むと痛いといった症状の方も注意が必要です。このような患者様の場合、解決策となる治療自体がケアではなく、抜歯の可能性も考えられる場合があるためです。患者様ご自身が自分のお口の状態を把握し、早期発見・早期治療に徹することが重要と考えます。
歯肉炎(歯周病経度)
歯肉炎とは、歯垢(磨き残し)による歯茎が腫れている状態をいいます。歯周病とは違い、歯茎の病気と言えます。また骨に対する侵襲が微弱なのでこの状態を改善して健康な状態に移行していくことが一番であると言えます。ただし、健康な時ほど、注意が向かないことが多いですので日々の生活習慣の中に歯科検診といった習慣を取り入れて自分自身のメンテナンス日を決めていくのも改善策の一つだと言えます。
軽度~中度歯周病
歯茎の炎症を通じて今度は骨まで炎症が起きている症状を指します。歯肉炎と違うのは骨に対する侵襲が強くなっていることが挙げられます。歯肉炎のような場合はまた元の状態に回復しやすいですが、歯周病の場合一旦溶けてしまった骨は元にはもどりません。今の現状をこれ以上悪化させないように徹することで歯を長持ちさせていくのです。また歯肉炎と歯周病では治療のアプローチの仕方が異なります。歯肉炎の場合は「目」に見える範囲でのケアによって改善する可能性が高いですが、歯周病になると歯周ポケットと呼ばれる深い歯と歯茎の溝ができてしまい、その部分に汚れが付着しやすくなります。結果としてセルフケアでは限界があり、病院での専門的な汚れの除去等が必要になってきます。
重度歯周病
重度歯周病とは症状が重く、治療法が限られているケースを示します。
上記の写真のように、歯を支えている骨が全くない状態でこのまま使い続けていくか、あるいは抜歯を行い、痛み等を改善していくかのどちらかになります。
重度歯周病の方の場合は複数本抜歯を行うケースがあり、術後の身体的負担や精神的な喪失感に見舞われます。治療を行う際には患者様としっかり考えていく必要があります。通常保険診療の場合歯を失った方へはブリッジや入れ歯を提供しますが、近年ではインプラント処置という画期的な方法もございます。歯を失う前にしっかりとしたケアを行うこと、そして歯を失うことになったとしてもその後の処置方針を定めて諦めないことが重要と言えます。
1:歯ぐきからの出血
歯磨きや固いものを食べた時に、歯ぐきから出血したりするときには注意が必要です。
普通の歯磨きでは、出血することはほとんどありません。
歯ぐきから出血するということは、炎症が起こっているということを表しています。
歯ぐきからの出血があったら、できるだけ早めに歯科医院にいって調べてもらいましょう。
2:口臭が出る
突然、口臭がきつくなった場合は、歯周病の可能性があります。歯周病菌の繁殖により、強烈な臭いを発します。
口臭は、なかなか自分には分からない場合もあるので、ちょっとでも心配に思ったら歯科医院に相談しましょう。
歯周病による口臭は、きちんと根本的な治療を行わないと消えません。対処療法では治らないので注意が必要です。
3:口の中がネバネバする
なんとなく、口の中がネバネバする、と感じたときには、歯周病を疑う必要があります。
歯周病菌が唾液に中に多く含まれていると、口の中がネバネバして気持ち悪いと感じることがあります。
4:歯ぐきが腫れて、赤(紫)くなった
歯ぐきが腫れたり、色が赤や紫色になっている場合は、歯周病を疑う必要があります。
これは、歯周病菌が悪さをして、歯周組織に炎症を起こしている証拠です。
5:歯ぐきから膿がでる
歯周病の症状が進行すると、歯ぐきに膿がたまったりします。
その場合、歯科医院で膿を出してもらう必要があります。
しかし、歯周病の膿は、出しても出してもたまり続ける場合がありますので、歯周病をきちんと治療することが大事です。
6:歯がぐらぐらする
歯周組織に炎症が起こると、歯がぐらぐらしてきます。
指で上下左右に動かすと、明らかに歯がぐらぐら動くような場合は、かなり歯周病が進行しているサインです。
歯がぐらぐらしてしまうまでに進行した歯周病は、かなり進行した状態ですので、一刻も早く歯科医院での治療をおすすめします。
また、歯と歯の間の隙間が大きくなり、食べ物が挟まりやすくなった人も要注意です。
7:固いものを咬むと痛みが生じる
歯周病により歯周組織が炎症を起こすと弱くなり、固いものを食べると痛みが生じる場合があります。
歯周組織が歯を支えきれずに起こる痛みです。
また、痛みが生じるまでにならなくても、歯ぐきがムズ痒かったりする場合も、歯周病を疑う必要があります。
歯周病の体に及ぼす影響とは?
近年、歯周病菌によってさまざまな病気や疾患が誘発されていることがわかりました。
たとえば代表的な全身疾患では、歯周病が重篤な人ほど、糖尿病の症状が重篤になりやすい、あるいは糖尿病をお持ちの方は歯周病に罹患しやすいことが確認されています。
また歯周病に罹患している人で、嚥下が十分にできない高齢者は歯周病原菌の付着した嚥下物を肺に詰まらせてしまってその結果炎症性肺炎をきたすことも知られています。
また、口腔内に溜まった歯周病菌が感染するとともに血中に流れた菌は血栓を作り出し、さまざまな臓器に悪影響を及ぼします。
出典:日本臨床歯周病学会
肺炎
歯周病菌が多いと肺に入るリスクが高まる
低体重児出産・早産
歯周病をお持ちの方は7.5倍リスクが高まる
脳卒中・脳梗塞
歯周病菌によって血栓が2〜3倍の確率でつくられる
以上のような学術データが存在します。このことからも食物の一番最初に入る口腔内(=お口)の状況によって全身的な状態は大きく変わってくることがわかります。
逆をとらえると「口腔ケア」がしっかりしていることでより快適な生活を過ごせる要素であることもわかります。
心筋梗塞 | 冠状動脈が動脈硬化で狭くなることで発症します。 発作から数時間で死亡する場合もあります。 |
バージャー病 | 手足の末梢血管に閉塞をきたす疾患です。 |
肋間神経痛 | 背中や体の側面部分に強い痛みが発生する神経痛の一種です。 |
三叉神経痛 | 顔面の知覚神経である三叉神経に起こる神経痛です。 顔面の片側に突然鋭い痛みが起こります。 |
糖尿病 | 血糖値が病的に高い状態をさし、体中の様々な臓器に重大な傷害を及ぼす可能性がある病気です。 |
歯周病を引き起こすリスクファクター
歯周病には環境的要因、生体的要因、細菌的要因の3つの要因があります。
環境的要因
生活習慣が歯周病に悪影響を及ぼします。
・喫煙
・運動不足
・偏食
などがあげられます。免疫機構の低下に伴い、歯周病菌の活性化が起こるためです。
生体的要因
遺伝的な要素で歯周病になりやすい場合があります。
・生まれつき歯周病菌に免疫がない場合
・糖尿病等の歯周病に悪影響を及ぼしやすい全身疾患を患っている場合
・唾液の性質(唾液には個人が持つ抗菌因子には各々差があります)
などといった生まれつき抵抗力が弱い方があげられます。
細菌的要因
口腔内の細菌の状態によって歯周病になりやすくなります。
・歯石・歯垢の除去のケアができていない
・噛み合わせが不正である
・食いしばり等の癖がある場合
など、自身では対応しきれない、専門機関を通じて対応していかないといけない場合がありま
す。
以上の「歯周病を引き起こす原因大きな要素」のうち、細菌によるものが多くの割合を占めています。特に歯垢が長期に付着した歯面には歯石と呼ばれる歯ブラシでは拭いとれない硬い汚れが付着しそれを住処に歯周病菌も暴れます。長期にわたってこの状態が続くと結果として歯を支えている骨が溶け出し、歯茎が腫れ、歯がグラグラになってしまいます。早期のクリーニングを通じてこれ以上悪くならないように徹していく必要があります。
また、歯医者さんで作って入れてもらったブリッジや被せ物がだんだん合わなくなってきて噛み合わせが不十分で無駄に局所的な力が加わってしまい、歯周病が悪化します。定期的な検診やレントゲン撮影を通じて自身の状態をしっかりと把握する必要があります。
歯周病の対策と治療方針
1,歯肉炎の治療方針
歯肉炎の場合、歯科衛生士さんを通じたクリーニングやブラッシング指導を行います。
歯の表面に付着する汚れの除去やご自身のセルフケアのやり方のご説明を通じて症状を改善していきます。定期検診のケアはご自身のお口の健康を向上させることにつながりますので一度ご来院いただくことをお勧めします。
2,軽度~中等度の歯周病の治療方針
軽度~中等度の歯周病の場合、歯の表面に見える歯石や歯垢の除去や、ご自身のセルフケアだけでは十分に対応しきれなくなってきます。なぜならば、歯周病が進行することで歯を支えている歯周ポケットと呼ばれる歯と歯茎の隙間が深化し、頑固な汚れが深部に蓄積しやすいためです。
この場合一番効果的なのが歯科衛生士を通じたルートプレーニングと呼ばれる歯茎の中のお掃除をしていくことや、場合によっては外科処置を通じて歯茎をめくり、実際に歯の表面を徹底的に綺麗にお掃除していくことが挙げられます。ただし、外科処置に関しては術後にしみる症状や痛みを伴うことがありますので主治医との相談が必要です。
3,中等度~重度の歯周病の治療方針
中等度~重度の歯周病の場合、どのようにして治療していくことが効果的なのでしょうか?
歯周病の治療は長期に渡り、完治することが難しい病気です。その為、患者様は不安を抱えて来院することが多く見受けられます。
歯科衛生士の丁寧やクリーニング処置やご自身でのブラッシングの励行を通じてもなかなか治らない理由は、外科的介入をしなければ改善できない歯の深い汚れが付いていたり、歯の形が複雑で歯茎をめくった状態でクリーニングをしないと改善しない等の環境があるためです。歯の構造はとても複雑でひとりひとりの歯の形は基本的には似ていますが、人によっては歯の根元の本数が違ったり、歯の表面に溝やくぼみがあって歯石が溜まりやすかったりするなど人によって汚れが付くやすく除去しにくい方(いわゆる歯周病が重篤化しやすい方)がいらっしゃいます。
外科的介入を通じて悩んでいた症状を改善し、快適な生活を手に入れた患者様を多く拝見して参りました。歯周病の治療に外科的処置を行うことがあります。そのことを「歯周外科治療」と呼びます。
とても有効な処置で現在は保険適応をしています。ただし、適応症が限られていますので経験豊富な先生もしくはしっかりと相談をうけてくれる先生のもとでの処置をお勧めします。
また当院ではCT画像を利用して実際に歯周病の状態を確認することができます。最新鋭のレントゲン機材等を用いて骨の状態、歯周病の進行具合を確認できる施設での診断は今後の治療方針を定めていく上で非常に重要であると考えます。
歯周病治療のポイント
①永続的な歯周検査とクリーニング
目に見える改善等がないと通院へのモチベーションが下がりやすく、治療効果を得られにくいためしっかり管理された歯科医院での治療をお勧めします。
②診査・診断
歯周病によって歯列不正が生じるとセルフケアが困難になりやすいため、歯周病の進行が重度になる前にしっかりとした診査・診断を受けて適切な処置を受けることが必要です。
③外科処置の適応
クリーニングを通じての改善には限界があり、外科処置が適応であることが多く存在します。
また外科処置を行っていない歯科医院が多いため、経験の豊富な先生の元でクリーニング以外にも外科処置の適応等の相談を受けられることをお勧めします。
④CT撮影
従来のレントゲン画像では骨の状態まで十分に診断できなかったため、CT画像等の3次元的な骨の状態を把握できると治療の方向性を見出しやすく、解決できる手段の選択肢が導かれることができる。
くろさわ歯科医院での歯周病治療
①初診・カウンセリング
現在の症状、生活習慣をお聞きします。
生活習慣病といわれている歯周病を治療するには、患者様の日常生活(食生活、歯磨きの回数、睡眠時間など)を見直すことも重要です。
②検査
お口の状況を正しく検査し、治療計画を立てます。検査の内容としては
・CT撮影
・歯周ポケットの測定
・歯肉からの出血
・咬み合わせの検査 など
これらの検査結果に基づいて、治療計画を作成します。また、現状や今後の予定など十分に説明し、ここから歯周病の治療が始まります。
③歯磨き指導
患者様の現在の歯磨き方法を見直し、歯科衛生士が最適な歯磨きをアドバイスします。
正しい歯磨きの方法を身につけ、ご自宅でのメインテナンスを強化していただきます。
歯周病治療は、医院での専門的治療と患者様ご自身による口腔ケアがとても重要です。
④治療
◆スケーリング
歯肉縁上(歯の表面に見える部分)にある歯石を除去します。歯磨きのチェックも行い適正に行なわれていない時は再度、歯磨き指導・練習を行います。
◆スケーリング・ルートプレーニング
歯肉縁下(歯ぐきに隠れて見えない部分)に歯石があるため症状が改善されない場合、この歯肉縁下歯石を除去します。状態によって局所麻酔が必要になります。
◆歯周外科処置
基本的な治療を行っても、改善しにくい部位や健康でお手入れしやすい歯ぐきの獲得のために、ポケットの除去、歯ぐきの移植などをおこないます。
⑤再検査
再度お口の状態を検査します。
経過が良好であれば、メインテナンスに移行します。
⑥メインテナンス
歯科衛生士による定期メインテナンスを行います。
歯周病治療後、継続的に定期検診やクリーニングを行い、良好なお口の状態を維持していきます。
歯周病の再発・悪化防止には、定期的なメインテナンスとご自身での正しいブラッシングが重要です。