私の両親は、早くに亡くなりました。
もし今も生きていたら、年を重ねた父や母の姿を見て、どんな会話をしていただろう、
歯について歯科医院で働く娘らしく口腔衛生の大切さなど伝えていたのかな、
院長先生にインプラントをしてもらうように連れてきていたりしていたのかな、…と考えることがあります。
私の父母といっても過言ではない当院に通う患者様のためにもお話しできればと思います。
高齢になることは、決して怖いことではありません。
だからこそ「健康に年を重ねる」ために、今日は誤嚥性肺炎と口腔ケアのお話をしたいと思います。
高齢の方で増加している
「誤嚥性肺炎」
高齢の方に多くみられる誤嚥性肺炎は、実は日本人の死亡原因の上位に入っています。
食事中だけでなく、眠っている間に唾液や細菌を誤って気道に入れてしまうことで起こります。
「むせていないから大丈夫」ではなく、気づかないうちに進行していることも少なくありません。
誤嚥性肺炎のメカニズム~
なぜ口腔ケアが重要なのか
誤嚥性肺炎は、食べ物を誤って気管に入れてしまうことで起こると思われがちですが、実はそれだけではありません。
高齢になると、飲み込む力や咳で異物を外に出す反射が弱くなります。
すると、眠っている間などに唾液と一緒に口の中の細菌が気道へ流れ込み、肺で炎症を起こします。
口腔内に細菌が多いほど、誤嚥した時のリスクは高まります。
つまり誤嚥性肺炎は「誤嚥+細菌」が重なって起こる病気であり、口腔ケアはその大切な予防策なのです。
高齢の方に多い口腔トラブル
高齢になると、唾液の分泌が減り、お口の中が乾燥しやすくなります。
乾燥すると細菌が増えやすくなり、歯周病や口臭、舌の汚れが目立つようになります。
また、歯ぐきが下がったり、噛む力が弱くなったりすることで、食事がしづらくなり、飲み込む機能の低下にもつながります。
入れ歯の不具合や違和感を我慢して使い続けている方も多く、これらが重なることで誤嚥性肺炎のリスクが高まっていきます。
高齢者向けの効果的な
口腔ケア方法
高齢の方の口腔ケアで大切なのは、「若い頃と同じ磨き方を続けること」ではありません。
例えるなら、年齢とともに肌のお手入れ方法が変わるのと同じです。
歯ブラシはやわらかめを選び、力を入れすぎず、小さく動かすことが基本です。
歯だけでなく、舌や頬の内側にも汚れは付着します。
ここをやさしく清掃することで、細菌量は大きく減ります。
うがいが難しい方は、口腔用スポンジや保湿ジェルを使うのも有効です。
ご本人だけでなく、ご家族や介護者が「一緒に見る」ことで、安全で質の高いケアにつながります。
唾液の分泌を促す工夫
唾液は、お口の中の天然の洗浄液のような存在です。
食べかすや細菌を洗い流し、粘膜を守る役割があります。
研究でも、唾液分泌量の低下は誤嚥性肺炎の発症リスクを高めることが示されています。
唾液を増やすためには、唾液腺マッサージや、よく噛む食事が効果的です。
また、口の周りを動かす体操は、飲み込む力の維持にもつながります。
乾いた土に水を与えるように、口腔内にもうるおいを保つことが、感染予防の第一歩です。
入れ歯の管理と調整の重要性
入れ歯は、靴と同じで「体に合わせて調整しながら使うもの」です。
高齢になると唾液が減り、口腔内の自浄作用が低下します。
その結果、粘膜の水分量のバランスが崩れ、傷ができやすく、治りにくくなります。
合っていない入れ歯は、痛みだけでなく、細菌の温床となり、誤嚥性肺炎のリスクを高めます。
「使えているから大丈夫」ではなく、定期的な調整と清掃が必要です。
快適に噛める入れ歯は、食事・会話・生活の質を守る大切な要素です。
歯科医院での定期検診・
クリーニングの役割
歯科医院では、日常では気づきにくい口腔内の変化を早期に発見できます。
専門的なクリーニングで細菌を減らし、入れ歯の調整も行います。
「痛くなったら行く場所」ではなく、「健康を守るために通う場所」。
それが、高齢期の歯科医院の役割です。
一緒に年を重ねていくことは、当たり前ではなく、とても幸せなことだと思います。
だからこそ、大切な人が最期まで自分らしく、安心して食べ、話し、笑えるように。
口腔ケアを通して、その時間を守るお手伝いができたらと、心から願っています。



